大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和49年(オ)1134号 判決 1976年3月18日

上告人

梶谷稔

右訴訟代理人

永宗明

被上告人

梶谷笑子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人永宗明の上告理由について

被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきものと解するのが、相当である。けだし、このように解しなければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、かつ、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損う結果をもたらすものではないからである。これと同旨の見解に立つて、贈与された金銭の額を物価指数に従つて相続開始の時の貨幣価値に換算すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸盛一 藤林益三 下田武三 岸上康夫 団藤重光)

上告理由<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例